R ETHICAL Journal 光を通す手、光を受け取る指

R ETHICAL Journal   光を通す手、光を受け取る指

甲府の街は、山に抱かれて静かに光を宿す場所です。細い路地の奥、古い木の扉の向こうには、金槌の音が微かに響く工房があります。

そこでは、職人たちが、今日も変わらずルーペ越しに小さな輝きを見つめています。指先の感覚は風のように繊細で、石の声を聞き分けるように金属を整えます。けれど、歳を重ねた職人の視力は少しずつ霞み、手は以前よりもゆっくりと動くようになっています。

海外の工場は速く、大量の宝飾は市場でまばゆく映り、安さと軽やかさを武器に席巻します。若い世代は未来を外に求め、工房を継ぐ者は減っていきます。そうして、火を灯す人の少なくなった工房は、夕暮れの灯のように頼りなく見えるかもしれません。

けれど、その炎は消えてはいません。むしろ、かすかに強く、深く燃えています。
美しいものを生み出したいという願いは、年齢にも流行にも揺れません。
宝石に通す光の角度をほんのコンマ単位で整え、金属が呼吸する瞬間を探り当てる。


その「見えない手間」こそが、甲府のジュエリーの魂なのです。

私たちは創業以来、素晴らしい日本の技術を信じてきました。
日本の職人の手がつくるジュエリーには、静かな温度があります。
身につける人の鼓動に寄り添うような、あたたかさと凛とした気配があります。

技術を次へつなぐことは、容易ではありません。
しかし、火を渡すように、灯りは受け継がれていきます。
ゆっくりと、丁寧に、生きることと同じ速度で。

甲府の光は今日もほんのりと揺れています。
その輝きは、宝石の硬さではなく、人の手の優しさでできています。
そしてそれは、決して失われないものだと、私たちは信じています。

お手にとっていただくジュエリーは、今日も彼らの息吹が息づいています。どうぞこの美しい世界を、守っていけたらと思います。

 

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